Marking Point


3rd Album

1. FLOWERS
2. アレ
3. モンローウォーク
4. 巨大エネルギー
5. ピース
6. 監獄オーケストラ
7. 花火

2005.10.26 Respect Music Japan UGCA-2005 ¥2,100(tax in)

Marking Point - 杉本恭一

 世代によって少し差はあるのかもしれないが、30年前の中学生にとってロックはこの上なく特別なものであり、全幅の信頼を寄せるに足るものであった。出来る出来ない、強い弱い、速い遅い、などの相対的な評価が及ばない、絶対的な世界。それは将来”平凡な幸せに安穏としない自分”になるために必要なアイテムであり、武器であり、思想だった。それほど、社会は戦うべき敵に満ちていた。
 月日は流れ、私たちは充分すぎるほど大人になった。いまだに下北沢の飲み屋で朝を迎えてしまうこともままある生活に苦笑いをしつつ、それでも踏み切りで足を止めるときにふと心をよぎることは、昔と明らかに違う。今日も明日も、すべての人の平凡な毎日が続きますように。社会を守ってきたシンプルなルールが力を失いませんように。
 平凡で大切な、ラブ&ピース。恭一は「10年前の『ピクチャーミュージック』のときでもまだ”あなたは平凡”って攻撃していたのになぁ」と笑い、私はユーミンの「街角のペシミスト」にある”だけど平凡だけはいやよ”という1行が大好きだった頃を懐かしく想う。ロックは、今も恭一にとって最強のアイテムだ。ギターを握り、鳴らすだけで、確固たる絶対感が立ち上がる。イマジネーションの飛距離は果てしなく、桃源郷さえも目の前に浮かぶ。『ピクチャーミュージック』『PENNY ARCADE』とイメージ重視のタイトルをつけた前2作とは違い、初めて”印をつける”という意思が前面に出されたこの『Marking Point』(ジャケットに顔を出したのも初だ!)が描きだすものは、楽しくも切実で、慣れ親しんでいながら新しい。
 かつては退屈の象徴だった穏やかな午後。あのとき手にしたロックは錆びることなく、私たちをまだどこかへ連れて行こうとする。足跡がひとつ。ふたつ。ここにもひとつ。非凡な恭一が望む平凡は、その先へと私たちをいざなって止まない。

佐々木美夏

●今回は7曲入りですね。

「最初は5曲ずつ2回に分けて短いサイクルで出そうか、っていう気持ちだったんだけど、でも曲がいっぱいできたから(笑)。まず8曲くらいに絞ってそこから5曲を選ぼうともしたんだけど、“もったいねぇな”ってことになって。そしたらこの7曲がすごくバランスがいいっていうか、今回やりたかったことがまとまるから」

●やりたかったこと?

「ミディアム・ビートのかっこいいアルバム、っていうのがサウンド的なイメージ」

●『PENNY ARCADE』の反応とかも今回の作品に影響した?

「う~ん・・いや、まったくないかな(笑)。あまり人の反応を意識しないようにしていかないと、やりたいことがわかんなくなるからね。だからあんまり人の意見とか反応とか・・嬉しい部分は嬉しいと感じまくって、それ以外のところはもう、頭にも身体にも入れないようにしとる」

●前回は8年ぶりっていう気負いもちょっとあったと思うけど。

「そうね。8年ぶりでもあるし、再出発でもあるし、っていう。そういう気負いは正直言ってあっただろうね」

●でも今回はフラットな恭一の良さがすごく出ている気がする。

「うん、わしもそう思う」

●ライブをこれだけ重ねてきた影響もある?

「うん。『PENNY ARCADE』がひとりの弾き語りツアーから発想したところがあったとしたら、今回はレコーディングでドミネーターズっていうリズム隊の個性を生かしたい、っていうのは当然あったし。analersでやってたような速い攻撃的なものや、レピッシュでやってたようなリズムがガラガラ変わるトリック的なものっていうよりも、あのふたりはミディアムの中でのビート表現ですごい力を発揮するから、それは生かしたかった。だから今年に入ってからのライブでは、アレンジとか構成とか選曲とかで『Marking Point 』を作るために自分で実験したことが、実はいっぱいあったんよ」

●歌詞のテーマは何かあった?

「サウンド的にはさっき言ったように、聞いた通りの杉本恭一ワールド、バンド・サウンドでギター・アルバムで、っていうことなんだけど、詞に関してはやっぱりね・・上手に言えないけど、まぁラブ&ピースだね。しかもピースのほうが強い。政治的だったりボランティア的なことでは表現できないけど、まぁ私なりのそういう感覚。意識せずにそうなった」

●2005年の日本に生きていて感じること?

「そうね。自分がライブに行った直後に新潟の震災があったりさ、東京ってとこに住んでても“ここんところかなりおかしいな”って思うじゃん。確実に治安も悪くなってるし・・普通でいるのは嫌だ、って思って生きてきたけど、周りのほうが異常だとしか感じなくなってきて。これはなんかちょっと・・危ないなぁ、って」

●“平凡がいい”っていう心境に自分がなるなんて、意外だよね。

「うん。信じられない。人間の心としての感情じゃない出来事が多すぎるよね。何も信じられない出来事が多すぎる。街レベルでもそうだからねぇ。どんどんどんどん・・・」

●このアルバムができあがって、自分でわかったことはある?

「曲を作ることがやっぱ好きなんだな、って。まだいくらでも作れる。作曲ということに関してのエネルギーは増しこそすれ、減っても枯れてもない。ソロっていうこともあってやっぱりメロディは大事にしたいな、って思ってるから、メロディ・メイカーでありたいと思う。そういう意味で自分を試したところもある」

●『Marking Point 』というタイトルにしたのは?

「最初は曲のタイトルからつけるのもいいかな、と思ってたんだけど・・タイトルってどうしても最終的に詞のイメージで決まることが多いんだけど、そうなると「Flowers 」がいちばんピンと来て、でもレピッシュで『Flower』っていうアルバムがあるから、じゃぁ歌詞からは離れよう、と。でまぁ、足跡をつけるっていうか印をつけるっていう意味で、『Marking Point 』。このアルバムで縄張りを広げたい、印をつけたい、そんな感じかな」

M-1「Flowes」

 花が咲き乱れてるイメージって好きなんよね。現実の花よりも、空想的な花がガーッて一面に咲いている。どっちかっていうと天国想像図みたいな、サイケデリックな感じ。音を鳴らすとそういう光景を感じることが多いよね。“Flowes”っていう連呼がどれだけ気持ちよく回るかがポイントかな。いちばんどんな人も想像を膨らませてくれる言葉と旋律のところだから。「楽園」とか「room」あたりの曲のハード版的なところもあるかな。



M-2「アレ」

 曲のタイトルはすごく悩むんだけど、これは作った瞬間から「アレ」だった(笑)。手に入れるものよりも、失っていくものって年々増えるじゃん? だからまぁこれは・・どっちかっていうと“失いたくない”だなぁ。諦めるな、諦めたくない、っていう想いもある。音楽をやってても、業界の状況も含めて正直厳しいこともいっぱいある、でもまだああいう体験もしてないし、こういう体験もしてないし、今持ってるこれも取り上げられたくない、そういう気持ち。昔、桑田(佳祐)さんのインタビューでも読んだことがあるけど、こういう仕事をしているとそういう恐怖って毎日背中にあるから。“行かないで行かないで”っていうよりは“手に入れよう手に入れよう”としないと、本当になくなるから。


M-3「モンローウオーク」

 ずっとビートルズの後期しか聞かなかったんだけど、最近は初期もよく聞くようになって。弾き語りとかやるようになると、サウンド的に必要だからブルース・ハープを使うじゃん。そうなってくると昔はまったく自分の身体の中になかったブルースとかも結構聞くようになったりして、多分そのへんからこの曲は発想したんだけど・・結果的に仕上がりの質感は全然違っちゃったんだけどね。でも入り口としては当時のビートルズが使ってた珍しい弦とか機材を探して買ってきたり、サウンドのシミュレーションを楽しんだ。歌詞はまぁちょっと皮肉っていうか、パンク世代の表現だね(笑)。最初は面白映像の世界だったんだけどね。すべての人が尻を振って歩いてるところが浮かんで、“あぁこれは楽しい”と(笑)。


M-4「巨大エネルギー」

 これは意外に演奏が難しい曲。ジャズにありがちなコード進行で遊んでるしビートも跳ねてるから。それをこんだけエネルギッシュに作るっていうのが目標だったんだけど、その通りにできた。レコーディングでもいちばん苦労した。この詞も世界で俺しか書けないと思うバグ・ワールド(笑)。昔のヒーロー・ソング的な言葉で遊んでる。少年期のヒーロー・ソングに出てくるような言葉が並んでる。“はやく人間になりたい”とか“どこの誰だか誰も知らない”とか(笑)、いろんなのがコラージュされているんで、見つけて楽しんでください。


M-5「ピース」

 ラブソングだけど、好きな女性だけに向かってる歌ではまったくない。登場しているのはカップルなんだろうけど、言いたいことはそこではない。まぁタイトル通り、大上段に振りかざしてはいませんが、平和を祈るって言ったら変だけど、そういう気持ちかな。サウンドはひさびさにスカのリズムをロック的に仕上げた。スカコア・バンドの解散がここのところ続いたじゃん。そうなってくると、アマノジャクだから、ある種発明者の俺としては逆に1曲作ろうかな、って気になっちゃう。だけどスカコアの代表的なブラスとかオルガンとかの世界はまったく排除して作った。


M-6「監獄オーケストラ」

 タイトルがかっこいい、って声が結構多くて驚いてるよ(笑)。“今度はプレスリーですか?”とか言われると思った。ちょうど制作期間中にいろんな本を読んだりした影響もあって、こういう世界が広がったんだと思うけど、牢屋に閉じ込められて暮らすとか、無人島でひとりになったりとか、孤独の中で聞こえてくるもの、見えるもの・・でも自由なわけ。不自由な自由。孤独の恐怖の中にいると、こんなものやあんなものがすごく大事に見えたり聞こえたりするのかなぁ、って。あぁまた“絵の具”とか書いてる、て思ったけど、まぁ俺らしくていいか、と。


M-7「花火」

 これは結構昔に作った。人にあげようとしたこともあるんだけど、運よく俺の元から離れず(笑)、ここらで出さないとこの曲はお亡くなりになるな、それはもったいない、と。ツアーとかしてると、こういう気持ちになるよね。すんげー小さい火なのかもしれないけど、それでも灯しにまたここに来たい、っていう。傷があることに気付いていてもイヤなことは忘れないと生きてはいけないし、そうね、“諦めない”っていう気持ちも入ってる。やっぱそう思ってるんだね。花火も花も寿命が短いから美しいとか言うけど、俺としてはもう、ずっと光っててほしいんよね。だからそういう儚いところは、本当は好きじゃない。でも儚い美しさも、子供の頃よりはわかるようになったかな。






杉本恭一 Official Web Site