PENNY ARCADE


2nd Album

1. 感傷的な会話
2. 日曜日
3. Timing
4. 秘密基地
5. 蝶々の指輪
6. ピーナッツ
7. イメージの裏切り
8. 石の星
9. 記憶
10. 愛の国ガンダーラ
11. HAPPY BIRTHDAY-This is not the song made for the 40th birthday-
12. ハミング-A tune is humming and it goes-

2004.10.6 BELO RECORDS BECA-4101 ¥2,800(tax in)

 私が好きなスティーヴン・ミルハウザーという小説家の作品に、『イン・ザ・ペニー・アーケード』という短編がある。”もう小さな子供ではない″12歳の少年が、2年ぶりにやってきた遊園地で、両親から離れてペニー・アーケードの中に入っていく。神秘のかけらもない最新のピンボールマシンやクレーンゲームに失望しながら奥へ進むと、2年前までは少年の心をときめかせた早撃ちカウボーイやボクサーや小さなホッケー選手たちが無造作に捨てられている場所を見つける。「こここそ、かつて僕が憧れたものたち、忘れてしまったものたちがひしめきあう、失われたペニー・アーケードであることは疑うべくもなかった」。少年はそこで小さな奇跡を体験し、大切なことに気づく。「彼らが僕を裏切ったのではなかった。僕が彼らを裏切ったのだ」。平凡な人間になる前にそれに気づけたことを感謝して、少年は明るい陽光の下で待つ両親のもとへと帰っていく。

 記憶の中のペニー・アーケードは、いつもほこりの匂いと薄暗がりとともにある。何かに挑戦する気持ちと、何かを信じる気持ちがあれば、いつまでも楽しむことができた。きっと今でもそこには、景品をあきらめきれなくて10円玉を握り締めている自分がいる。欲しいおもちゃを指差して泣いている自分がいる。未来はあまりに茫漠としていて、でも車は絶対に空を飛んでいることを疑わない自分が、まっすぐな目でこちらを見据えて立っている。
 8年ぶりとなるこのアルバムで、恭一は何も声高に主張しない。大笑いをしているわけでも、何かに怒っているわけでもない。普通の生活の中で当たり前に感じることを、嘘のない音と言葉で届けてくれる。でもそこにはやはりささやかな違和感、世界と自分との間を隔てる距離(それこそが恭一を表現者たらしめている要因だと私は思う)が横たわっていて、自分がなぜそんなものを身にまとってしまったのかに思いをはせるとき、ねじれた時間軸が目の前で扉を開いてくれていることに気づくのだ。
 私たちはもう、晴れているからというだけではしゃぎ回る子供ではない。でも、晴れていれば鼻唄を歌う程度には嬉しい。置き去りにすることができないものの存在も知っている。まだ何もあきらめる理由がないこともわかっている。毎日は続いていき、音楽は鳴り止まない。それを幸せと呼ぶか呼ばないかはさておき、恭一の歌はありふれた日常を包み込み、ほんの少しせきたてる。
 あの頃描いていた未来とはちょっと違うけれど、今もきっとペニー・アーケードでうずくまっているかつての自分を迎えに行こう。それはくすぐったさと後ろめたさが同居する、不思議な経験に違いない。恭一の音楽をBGMに、私は今日もそんな想像を楽しんでいる。


佐々木美夏

●8年ぶりのアルバムですね。

「3年くらい前には、レピッシュとanalers とソロっていう3本立てみたいなことをやりたかったくらいエネルギッシュな時期もあったんだけど。そう思ってたあたりからレピッシュも色々あったから、とてもそれどころじゃなかった。どうしてもレピッシュのほうがそうなってくると、なかなかソロっていうわけにもいかないなぁ、っていうのがあって。まぁ今回のタイミングは、去年の弾き語りツアーがあって、そこから発想したものだけど」

●レピッシュとanalers とソロ。曲作りに向かうときの意識は違うもの?

「違わないで作る場合もあるけど、レピッシュにしてもanalers にしてもどうしても役割ができちゃうから。だから現ちゃんがいた頃だったら、どうしても現ちゃんは勢いがある曲をあんまり作ってこないから、俺が勢いある曲を多めに作るとか。analers でも自分がやってた部分は非常に多いんだけど、それでも1曲くらいスローな曲があるとしたらチェリーの曲になったりとか多少の役割分担はあったんよ。ソロはそんなのないからね。でも今回は、この後にanalers で新譜を出すつもりでいたから。激しい曲があんまり入ってないのはそういうことやね。だからanalers が止まっちゃうっていうのを制作段階でわかってたら、もう少しノリのいい曲が入ってたかもしれない。かも、だけどね」

●アルバム全体のテーマ作りは?

「こういうアルバムのイメージは何年かあったんよ、この2~3年。でもここまでガキの頃のことだとかが出てきたっていうのは、弾き語りツアーでレピッシュの懐かしい曲とかひさびさにいろんな曲をやったじゃん。そしたらいろいろ思い出したりする景色があって。本当の景色じゃなくてね」

●意識的にノスタルジックなものを集めた?

「そういうわけでもなかったけど。まぁ曲が呼んだんだろう、って自分ではいつも思ってる。どうしても曲やアレンジが先になっちゃうから、詞を書いていくときにたまたまそうなっていった、って感じやけどね」

●テーマを掲げたわけじゃなくて、作っていくうちに自然とまとまっていった?

「そうそうそう。ここんとこ哀しいことが続きすぎたけど、そういうことを音楽には出来ればしたくないじゃん? だから過去を振り返ってるわけでも全然ないし、今やこれからのことも歌ってるんだけど・・作らなきゃいけんかったアルバムなんだろうな、とは思う。うまく言えんけど」

●おとしまえ? 決着?

「なんだろう・・・とにかく弾き語りのツアーがすごく大きくて。自分の音楽を必要としてくれる人がいる、っていうのがものすごく嬉しくて。自分でも“このまま音楽を続けていけるのか?”って思うような現状ばっかり起きてたから。その時点でお客さんには報告できてないことが多かったけど、でもそんな中なのに非常に必要とされているっていうのが大きくて。そこでもらったエネルギーがアルバムになった感じかな」

●詞は相変わらず苦労した?

「苦労したものはしたし、してないものはしてないかな。詞はほとんど公園で書いた(笑)。メモ帳を持ってね」

●昼間にこんな人がずっと公園にいたら、近所の人に警戒されない?

「いろんな人がいるから大丈夫」

●リストラされたお父さんみたい(笑)。

「そうは見えんやろ(笑)。そうは見えんようにして行っとるよ、さすがに(笑)」

●ボーカルの表現力は自分でもアップしたと思う?

「うん。そうね。あんまり張って歌ってる曲がないんよ、今回。狙いではあったんだけど、弱く歌っても表現力を出せるようになりたい、っていうのがちょっとあった。まだまだ練習段階だけど」

●ガーッて怪獣みたいに歌うイメージばっかりついちゃってるもんね。

「うん。そっちは、特にanalers やった事もあって、ある程度できるな、って思ってるから」

●10月からはツアーも始まりますね。

「このアルバムの曲をやることをいちばんにしてるんだけど、それをどう表現しようかっていうのはまだ固まってないよね。ひとりでやってもバンドでやっても再現はできないから。弾き語りの場合は特に歌と言葉しかないけんね。俺はまぁ、音楽やってれば面白い人に見えるかもしれないけど(笑)、音楽やってなきゃ結構退屈な人だから。要は、音楽のことや自分の曲のことや自分の想いとかを上手に語れる人がいるじゃん? 俺はまったくそういうことができなくて、俺の表現方法はこれしかない。それがCDとか舞台。だからひとりでやってるときっていうのは、よりリアルにそういうことができててしい気はする。

 今回は『ピクチャーミュージック』って言葉はつけなかったけど、やっぱり表現しようと思ってる世界観は同じよね。ずっと言ってるように、絵を描くのに近い感じ。歌詞でも、こういう世界を見せて、その人がどう感じてくれるか、っていうことばっかりやってると思うんよね。俺は自分がミュージシャンなのかバンドマンなのか何なのかわからないけど、表現者として本当に微妙なね、このへん(頭の横、約30センチ)の感覚って言ってるんだけど。多分そこにずっとあるものなんだよね、自分が表現したいものって。だからCDは想像力をかきたててもらって、ライブではこの曲たちをリアルに伝えようと思ってる。その日その日で違うリアルになるだろうけど」

M1.感傷的な会話

 ライブのSEにもなるんじゃないかと思って。最初は熊本弁の言葉だけをサンプリングして、いわゆる低い言葉だったらバスドラ、高い言葉をスネア、みたいな感じで熊本弁だけのブレイクビーツみたいのを作っちゃおうかな、って思ってたんだけど、さすがにやってる途中でバカらしくなってきて(笑)。で、楽器をいろいろ重ねてくうちにこうなった。すごい汚い言葉が入ってるんよ。罵り合いみたいな言葉。でも最後に外人さんたちが俺を褒めたたえてくれて終わるっていう(笑)。宅録やってたらこういうのはいくらでも作っちゃうような感じやね。タイトルはマグリットの絵のタイトル。こじつけ。


M2.日曜日

 ライブの出方って毎回すごくイメージするんよ。去年440でやったときに、アコギ1本でロックなことを、って思って作った。夕方くらいに、渋谷の井の頭線のあたりで泣いてた女性がいて。ものすごい声で、泣いてるんだか叫んでるんだかわかんないくらい。そういう人って都会には結構いるじゃん。あぁまたいるな、って思ったら、普通のOLさんみたいなまともな格好でね。そこそこきれいな人。逆にお~っと思ってさ。どうしたんだろう? って。みんな知らんふりしてるけど、ついつい見ちゃってさ。そしたらその泣き声がなんか歌みたいに聞こえてきて、そこでガ~ッてイメージが湧いてこうなった。


M3.Timing

 これはすぐ書けたな。自分にも周りにも言えることやね。これはもうこの通り。解説無用なくらいこの通り。誰でも思うことだろうね。自分もそう思ってます、っていう。


M4.秘密基地

 これもまんま。現実こうだった。「リックサック」の舞台でもある、当時の九州電力の社宅の庭にあった物置の中。このまんま。木の上っていうのもあったな。木も大事よね。なんだろうね。なんで木の上なんだろうね。この頃に描いた想像力とか世界観っていうのはずっとあるじゃん価値観も変わらないやん。あのときは今の何万倍も何億倍も、いろんなものが見えてたよね。


M5.蝶々の指輪

 もっと普通のラブソングっていちゃいちゃしてるんだろうけど、まぁ私はこんなもんかな(笑)。ダメ男?・・・ていうかね、例え俺がド金持ちでも、こうだと思うんだな。別にそれはケチだっていうんじゃなくて。だから価値観の問題。


M6.ピーナッツ

 ザ・ピーナッツは実際に好き。ベスト盤とか持ってるよ。我々の子供の時代の歌謡曲って、いやらしかったじゃない? まだアイドルとかがきちんと出てくる前よね。格好とかもそうだし、言ってることもわかんねぇし。特にピーナッツとか不思議な存在だったよね。いしだあゆみとかも。夜の世界の人、夜に聞こえてくる音楽だった。普通こういうレトロなアレンジだったら、ちょっとひわいな夜の歌、みたいな歌詞になるんだけど、俺がそうしてもね(笑)。だから、俺はそういう歌をこう感じてた、みたいなものになったんだけど。
 未来について今回若いデザイナーと話したんだけど、今の20歳すぎくらいの子が想像する未来はもっとCGっぽいんだよね。青く光ってて、アンドロイドみたいな世界。でも我々はもっと・・こうだったじゃん? 怖い未来もすごい未来も両方想像してたけど、現実は全然違った。でもまだなんか思ってるんだよね。こうなるんじゃないか、って。


M7.イメージの裏切り

 これは本当に公園やな(笑)。“鳩胸も痛むぜ”って言葉を書きたかったんだな。あとは“赤い足”ってとこ。でもね、公園にいると、本当に気持ち悪いんよ、鳩が(笑)。このタイトルもマグリット。


M8.石の星

 まぁ・・頑張ろうと思ってるんじゃない?俺も(笑)。前向きな曲だよ。普通ミュージシャンが、例えば環境問題とか戦争問題とかを言うと大げさになるんだけど、まぁ俺はこのくらいなんだよ(笑)。今言ったそのふたつの問題がそんな入ってるわけじゃないんだけど。


M9.記憶

 東高円寺っていうのは東京に来て初めて住んだところ。スタートがここだから、いつもふと何かの匂いとか景色とか音楽とかで、やっぱ思い出すんよね。異常に楽しかったから、この時期っていうのは。それこそ日曜日になると午前中からマグミが遊びに来たり(笑)。東高円寺に住んだのはたまたま。親戚に頼んで探してもらった。東京ってイメージでものすごい都会を期待してたら、東高円寺なんてその当時は何にもなくてさ。今は公園になってるところが蚕試験場がつぶれた巨大な廃墟で、よくそこに忍び込んでみんなで遊んでた(笑)。東京で育った人はどうか知らないけど、たまに自分の足跡をたどりに行きたくなるときない?


M10.愛の国ガンダーラ

 こんなバンドっぽくするつもりじゃ最初はなかったんだけど、ドミネーターズ(バンド・バージョンのライブでバックをつとめるふたり)とプレイしたら格好よかったから、そのまんまバンドっぽくなっちゃった。理想郷はあるか?・・う~ん・・難しい質問だねぇ(笑)。そういう風に考えたことはなかったけど、ただ小さな理想でも一応持ってるじゃん。そんな大げさなことじゃなくてさ。それはずっと持ってるし、今もそのひとつの理想の中にいるつもりではいるんだけど。
 でもどんなところなんだろうね、ガンダーラって(笑)。なんなんだろうね(笑)。ガンダーラ美術っていうのはよく聞くけど、ゴダイゴが歌ってた「ガンダーラ」は国っぽいよね。そこに行けばどんな夢もかなうなんて、いいよねぇ(笑)。でも子供の頃はそう思ってたよね。行けばなんとかなる、見つければなんとかなる、って。


M11.HAPPY BIRTHDAY-This is not the song made for the 40th birthday-

 音楽史上最強のおめでたい曲にしようと。レピッシュの「高砂やったらOK」にはもしかしたら負けるかもしれないけど(笑)。誕生日にこだわて生きてきたことってずっとなかったけど、analers のHPとかで誕生日のときにすごく祝ってもらったりするじゃん。最初は照れくさかったけど、だんだん非常にありがたく思うようになってね。まぁお返しやな。
 サブタイトルの意味は、40歳になる瞬間に作った曲があるんよ。それは違う曲なんだけど、そのことをanalers のHPで書いてたから、これが入ってたらそれだと思われるだろうな、って。一応コアな人のために(笑)。それは三拍子のピアノの曲なんよ。途中までは入れようと思ってたけど、入る場所がなくなってやめた。おまけに俺のピアノ演奏だから、非常にキツいなと自分で思って(笑)。


M12.ハミング-A tune is humming and it goes-

 幸せな曲やね、ものすごく。多少フィクションも入ってるけど。人間が、っていうか、特に俺は、機嫌がいいときは確実に鼻唄を歌ってるんよ。ため息ついてるときもあるんだけど、そういうときそれに気付くとすごいがっかりするんよ。特に人がため息ついてる姿を見ると、もっと来るじゃん。あ~っ、て。でも自分が鼻唄歌ってるときは自分が機嫌いいことに気付かずやってる。人が歌ってるのを見ても嫌な気分にはならない。ものすごい機嫌がいいときっていうより、もっと軽い感じなんだけど。今回はトータルして、このあたりの感情ばっかり歌ってるから。感情表現というのが上と下にあるとするやん。喜びと哀しみみたいに。今回は、喜びのほうに近いんだけど、もっとぼんやりした部分ばっかり歌ってるかな。
 鼻唄が自分の歌であることはないね。やっぱりビートルズが出てくることがいちばん多いかなぁ。







杉本恭一 Official Web Site